3-1 減らない事故
3-2 テネリフェの悲劇
3-3 CRMの誕生
3-4 人間の特性とヒューマンエラー
3-5 CRMとは何か
3-1 減らない事故
本書の題名と裏腹ではありますが、航空の歴史は事故の歴史でもあります。
まずは次のグラフをご覧ください。これは1959年から2013年までの間の、世界中で起きた旅客機事故のうち、全損事故(飛行機が完全に壊れてしまった事故)の統計をとったもので、その年の事故率(100万フライトに何件の事故が起こったか)を折れ線で示しています。
これを見ると死亡事故発生率は、統計の始まった1959年から最初の10年間で劇的に減少していることがわかります。ところがその後40年以上たった現在に至るまで、年度毎の多少はあるものの、全体で見てみれば事故率はあまり減少していません。つまり、実際に世界中を飛び回っている旅客便数が飛躍的に伸びている分、事故総数もまた増えているということになります。
これはいったいどうしたことでしょう。最初の10年間に関しては、黎明期にありがちなテクノロジーや運航ノウハウの貧しさに起因して発生した事故が圧倒的多数を占めていたはずです。信頼性の低いエンジンやお粗末な機体・装備品、貧弱な航法援助施設や空港施設。経験や勘頼りの整備技術、未だに未知な部分の多かった世界的な気象分析術等々がそれに当たります。 当然当時の関係者・技術者たちは総力を挙げてこれらの問題を解決していきました。飛行機の信頼性の向上はもとより、慣性航法装置やレーダー装置など装備品の充実、着陸誘導装置をはじめとする飛行援助施設の設置、全地球規模の気象解析システムの構築、運航ポリシーの整理等、この10年間で航空システム全体としての安全性は圧倒的な進歩を遂げることができたのです。
それではその後横ばいのまま延々と続くグラフは一体何なのでしょうか。テクノロジーや航空システム全体としての進化は、いまだ衰えることもなく続いているのに、です。 ヨーロッパやアメリカの先行航空会社では、この問題についてICAO(国際民間航空機関)やIATA(国際航空運送協会)とも協力しながら、この「減らない事故」の原因究明に必死の努力を続けていました。
そんな時、あの大事故が起こったのです。