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4-3 チーム機能とチームマネジメント

 4-3-1  チームとは
 4-3-2  チーム機能
 4-3-3 トータルパフォーマンス
 4-3-4  チームの落とし穴

  前節では緊迫した状況の中でのコックピットクルーの行動をご覧いただきました。この項ではチーム機能について簡単に解説するつもりですが、言葉でどれだけ詳細に解説をしてみても、このような実際の現場を見てもらうことに勝るはずもありません。この先あのコックピットの情景を時折頭に思い浮かべながら読み進んでいただければ幸いです。

  ついでながらここでは「クルー」という言葉を「チーム」という言葉に置き換えて話を進めています。コックピットクルーはもちろんチームそのものであり、その置かれた環境が少し違うだけの同義語であるとご理解ください。

4-3-1  チームとは

  まず最初にチームマネージメントについて考えてみましょう。  チームマネジメントとは、

チーム機能を最大限に活用し、それによって得られる高いパフォーマンスで課題解決を図ることができる、そんなチームを作り上げ、活性化させること

  つまりチーム全体としてのパフォーマンスを高めるために、チームメンバー全員のリソースをうまく引き出し、活用するための方策を練ることがチームマネジメントの本質であるということです。  そしてこのチーム全体としてのパフォーマンス、つまりチームを一体のものとして考えたときの出力(能力)のことを「トータルパフォーマンス」と呼びます。

  ここで注意しておかなければならないことがあります。それは、チームマネジメントは一般的には「管理職やリーダーの重要な職務の一つで、チームメンバーや部下を適切にマネジメントし、チーム全体、またはチームメンバー個々の生産性を高めるマネジメント手法」といった定義がなされていることが多いと思います。しかしCRMでは、チームメンバーは全員がリソースを持っていて、各メンバーはそれらのリソースを状況に合わせて適宜発揮することが求められます。

  CRMではあくまでもトータルパフォーマンスでものを考える、ということが大原則で、例えば「チームリーダーとしての役割」というのはまた別のものとして考えます。ですから「個々の生産性」などと言う概念はなく、個々の能力の評価は、いかにトータルパフォーマンスの向上に寄与し得たか、という観点でなされるべきなのです。

  このことについては後ほど、リーダーシップに絡めてあらためて解説することにしましょう。

4-3-2  チーム機能

  第三章では人間の能力の限界は思ったよりはるかに低いところにあると書きました。人間は同時に二つのことは考えられないし、慌てたり緊張したり、あるいは錯覚したりと、持って生まれた人間ならではの弱点は誰もが持っています。一つのことに集中していられるのもせいぜい30分が限度です。ストレスや疲労による人間の本来のパフォーマンスの低下はヒューマンエラーを発生させ、それを引き金としたエラーの連鎖が事故へと直結する致命的エラーの誘因となるのです。
  そんな陥穽に陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか。そこにチーム機能という強い味方を引き込んで対抗しようとするのが、CRMの基本コンセプトの大きな柱であるということになります。


  このチーム機能には、大まかに言って多重性効果と相乗効果という二つの機能があります。
  一つ目の多重性効果は、複数の人間が連携することによる人的多重性を利用することによって得られるものです。  作業分担や多重確認、相互監視・相互支援などによるエラーコントロールは、シンプルでいてその効果は非常に高いものがあります。また複数の人間のリソースを活用したチームによる問題解決力も、まさに「三人寄れば文殊の知恵」と称されるほどのパワーを発揮します。

  そして二つ目の相乗効果は、共通の目的のために力を合わせ、互いに競い合いながらも切磋琢磨し健闘をたたえ合う間に育まれる連帯感が、メンバー一人一人の動機や意欲といったものをさらに高めるという心理的効果です。連帯感が1+1を2に留まらず3にでも4にでも変えてくれるのです。「ワンチーム」、「チームジャパン」などという呼称がさらに多くの人の連帯感を呼び覚ます効果があることは、誰もが実感していることでしょう。

  CRM訓練ではこれらの機能を頭で理解するとともに、たとえば情報共有をより円滑かつ効果的に実現するためにはどんなコミュニケーション方法を取ればいいのか、どんな人間関係を構築しておけばいいのか、あるいは状況に応じたリーダーシップスタイルとは一体どんなものなのかなど、チーム機能を高めるための様々な手法について知ることをまず求められます。実際の行動のための具体的ガイドラインも用意されていますが、それは後で紹介することにします。
  とにかく、そういった知識と自分の実体験をつき合わせていくうちに、自分の行動を自分でどう変えていけばいいのかについて気付くことができる、という段取りになっているのです。

  ただ教えられてその通りに行動するのと、自分で気付き、自分で考えて行動するのとでは天と地ほどの違いがあります。自分の意思で発せられる言葉や行動は、その論理性とゆるぎない自信に支えられ、相手の心にもしっかり届くはずなのです。

  チームとは、それぞれ違う体質を持った個々人の集合体です。しかしたとえ千差万別の個性があったとしても、各メンバーが一つの課題を達成するという目的のために、お互いを活かし合って協力しようという意思を持っていさえすれば、そこには「相乗効果」というものが生まれてくるはずです。

  やはりそこには「意思」がなければならないということですね。

  意思を持たずただ言うなりの人間なら、何人集まっても意味はなく、それをチームとも呼びません。

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